第002話 『 天真庵のカウンターのこと 』

「ここに、こんなカウンターを・・・」なんて話してるある日の午後、近所に解体している建物があった。
  同じ町内会の世話役さんに「あそこへいってみたら・・」といわれ、いってみると、そこに立派なカウンターがあって、それを譲り受けた。どうも「町内会の人たちの計らい」らしい。運ぶのは、重たかったけど理屈ではなく、心の底に染みるような感動があった。そのカウンターには、あの「世界の王」さんもよくとまって、お酒を飲んでいたらしい・・・。そこの主人(故人)と王さんは、リトルリーグ時代のライバルで、その後もずっと交流があったこといを、「ナンバー」という雑誌をいただいて知った。そこには、亡くなった主人と、王さんと、そのカウンターをくれた街の人たちが、写っていた。落語や歌舞伎に出てくる「長屋の町」は、時代に取り残された感があるけど、取り残されたと思うのは、勝手なものさしで、そこには「日本人が置き忘れたもの」が、残っている。「人情」なんて簡単にいうけど、これだ、というものに、ふれることは稀有になった今日このごろ。

カウンター周りや、棚、イスなどは、般若君がやってくれるし、坪庭は長崎君。unaと林君も、なんやらおもしろい ことを考えているみたいだ。専門の電気工事以外は、ぜんぶ、知り合いの芸術家たちが、すばらしい腕を発揮してくれそうな、そんなウクウキするようなプロジェクト。まとめ役の中西君は苦労しそうだ。5年後には、デジタル放送用に、この街には「第二東京タワー」ができる。でも放送がデジタルになったり、便利になっても、人間や自然は「あなろぐ」である、のが自然の摂理。

「自分がリセットできたり」「忘れかけたものを思い出させてくれたり」「人間らしい時間」を過ごせたり、できる「場」 が今、必要ではないかと思う。「あの人がいたから」「あのお店があったから」「あの街があったから」・・・そんな「・・たから」は「宝」だと思う。長屋茶房・天真庵がそんな「たから」になれたら・・・というのが、ささやかな目標。