今日は母の日。
お茶のお弟子様が八広(やひろ)で、花屋兼カフェをやっておられる。
「イルフィオレット」という。イタリア語で「花」という意味らしい。
毎年母の日は、そこに頼んで花をふたりの母におくっている。
九州の母は、施設に入っていて、シンコロ騒ぎの中、娘とも会うことができず、不便な生活を余儀されている。
「ありがとう。届いたバイ」と電話の声がいつもより明るいのが、かえって寂しかった。
今年は母の日も「オンライン」というのが流行りらしい。仕事も里帰りも飲み会もみな「オンライン時代」だ。
昨日の夜、カウンターでそば焼酎のそば湯割りを飲みながら、本を読んでいた。
「トゥー ザ バー」(To The Bar)。成田一徹さんの本。切り絵でバーを紹介する人の「大人の絵本作家」だ。2005年に出版された。
縁あってそのころ、著者と会う機会を得たが、それから数か月後に突然召された。
成田さんは1949年神戸生まれ。港町神戸にあった素敵なバーの重い扉をあけた時が原点。神戸や京都、東京の素敵なバーがあまた紹介されている。
不景気や時代の流れで、紹介されているバーも半分残っていない。
ぼくのバーの原点は「祇園サンボア」・・もちろん紹介されている。
「・・・「祇園サンボア」は、15年ほど前、東京のさるバーテンダーに紹介された。
欅(けやき)の一枚板のハイカウンター。バック・バーを照らす独特の照明。
突き出しのピーナッツ。ダブルの位置にカットの入った10オンス・タンブラー。
こうしたサンボア・スタイルを守るのは、二代目マスター中川たつみさん。
その行き届いたサービスと、あくまでやわらかな物腰は、祇園の水が育んだものか。
もって生まれた人柄と育ちにはかなわない。八時を過ぎて、いい時間になってくると老舗の若旦那、芸妓さん、東京からのファンもやってきて、祇園の夜は和やかに更けてゆくのである。
いや、いい店を紹介してもらった。」
モノクロの切り絵が、色付きでないぶん、反対に非日常の世界をみごとに表現していて、読むたびに昭和50年代の祇園の「におい」みたいなものまで醸し出してくれる。
「いや、いい時代の京都で暮らしていた」とつくづく思う。時々銀座のサンボアで飲むことがあるが、ウィスキーを3杯あけるまで尻の下がむずむずするくらい、落ち着かない。
時代も変わったし、自分も年をとった証だろう。
最近は「Bar 神戸」で飲むのが楽しみだ。神戸ではなく宮崎の延岡にある。
神戸という苗字のきれいな女性が店主。
せんだって亡くなった叔父の実家があった延岡の五ヶ瀬川の川端に建つビルの二階にあるお洒落な店。
うちの先祖さんたちが眠る寺のすぐ近くにある。
そんな縁で墓参りのついで、というか、そこのバーで飲みたいがために、年に一度延岡にいくのが夏の行事になった。
そのころ「ヘベス」という日向特産の柑橘がある。「ヘベススペシャル」というカクテルは秀逸だ。
To The Barの「まえがき」に
・・・今宵もバーへ。
めざす酒場への心の矢印を向けた瞬間、あのバーテンダーの顔が浮かび、そこで繰り広げられるいくつもの好ましいシーンが思い浮かぶのである。
だから、そこに致る道程そのものがすでに楽しく、ときにはあえて迂回し、いつもと違う道をたどって店に入るという酒狂もやってみたくなる。
この騒ぎの中で、また多くのバーが姿を消しそうだ。
落ち着いたら、好きな人を誘って、マッカランでも飲りにいきたいものだ。
感謝・野村拝